舞台 遙かなる時空の中で3を観たら人生の答え合わせができた話

私と遙か3の話はこの記事後半でも説明しているので興味のある人はどうぞ。

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「12月に遙か3の舞台あるんだけど観に行かない?」

8月に友人から持ちかけられた時は正直「うわっ、ついに来たか」と思った。12年前にハマり、その後の二次元の男の好みを決定してしまったコンテンツが2.5の餌食になってしまったとさえ嘆いた。その頃の私はどうにも2.5次元という文化に否定的だった。保守的なオタクは好きなキャラクターが少しでも原作からズレることに敏感である。見た目が違う、声が違う、解釈が違う…自分の中で勝手に膨らませたコレジャナイ感を突きつけられることを私はとても恐れていた。だがしかし、「一回くらい舞台観るのも社会勉強になるかも」という好奇心もあり、最終的にはまあええかと二つ返事で友人にチケットを取ってもらった。

それから約四ヶ月間、舞台に行くことを時々思い出しては忘れを繰り返して過ごすうちにだんだんと本番当日まで暦は進んだ。

この間、私は今更ながら刀剣乱舞にハマり、それを嗅ぎつけた友人からミュージカルのDVDの入った小包が届いたので「社会勉強」と言い聞かせ鑑賞した。視聴10分でスペースキャットの顔になった。私の本丸で私が大事にしてきた加州清光が全く知らん女達に愛想を振りまいていると憤慨さえした。しかしそれは間違いである。あくまで「とある本丸」の加州清光が平成の世に遠征して我々にファンサービスをしているのだ。なんてサービス精神旺盛な本丸だこと。気付いたら私も赤いペンライトを振る動きをしていた。そんな感じで初めての舞台鑑賞まで、少しずつ2.5耐性をつけていったのである。

12月某日、いよいよその日が来た。

「私今日弁慶さんに会ってくるから」と別に言わんでもいいことを夫に告げ、いつもより気合いを入れて化粧をした。カワイイ女でありたいなどというチャラついた心は捨て、さながら戦場に赴く武士の面構えで電車に乗った。

友人と合流し、昼食をとり会場へと足を運ぶ。席に着いた瞬間私と友人は息を呑んだ。友人の日頃の善行と豪運のおかげで我々は前列2番目という超良席を獲得したのである。友人もこんなに舞台に近い席は初めてらしくソワソワしていた。それほどまでに良い席を初めての観劇で味わってしまうなんて贅沢すぎやしないか?つられてモゾモゾしているうちにいよいよ開演の時がきた。

なんで目って二つしかないんだろ?人体の構造を恨むくらいに近い距離で役者さん達は目まぐるしく動いていた。主人公・望美役の吉川友さんのキラキラした大きな瞳が印象的だった。そして私がずっと推してきた武蔵坊弁慶を演じる石渡真修さん。彼は常に冷静に時に厳しく仲間を諌め、自らも薙刀をふるって闘う。優しく人当たりがいいけどどこか影を背負っている。田舎の冴えない女子高生だった私の心を射抜いた男が私と同じ次元に立っている。それを確信した時、私はふと昔のことを思い出した。

「面白いゲームがあるんだけどウチ来てやらない?」と完全に怪しいパーティーに誘う不良のやり口で友人を遙かの世界に引き摺り込んだこと。日本史の資料集の源平合戦のところだけ穴があくほど読んだこと。「あなたは〇〇〇〇人目の眠り姫…†」のカウンター付きのサイトを何件も漁ったこと。普段は黒歴史などと自虐するけどそれでも全部私を形作ってきたのだ。そして遙か3というゲームの衝撃的な1周目の終わりのこと…。

舞台の第一幕が終わった時、泣いているお客さんが何人かいた。みんなあの1周目を思い出している。ここには沢山の白龍の神子がいる。そう思うとなんだか嬉しくなった。

そして第二幕、強くなったどころか5周くらいしてきただろと思うくらいたくましくなった望美。火花が散っていてもおかしくない程の白熱した戦闘シーン。ゲームでは見えなかった部分が舞台で繰り広げられていた。開演当初は「みんな顔がいいなあ〜」「なんかいい匂いする〜」とまだ余裕があったけれど、いつの間にか手に汗握りながら鑑賞する自分がいた。

あっという間だった。気がついたら終演の挨拶が始まっていた。「弁慶さんが帰ってしまう!」と焦った私は無意識にずっと彼の方を向いていた。

これは舞台あるあるというか現場あるあるなんだろうが、一瞬だけ弁慶さんと目があった気がした。画面越しに何度も優しい視線を向けてくれたけれど、その人が今同じ次元に立ってこっちを向いた。何言ってんだこいつと思われてもいいくらいに嬉しい。

同時に、遙か3を知ったあの日のこと、友人と二人で叫んだり嘆いたりしながらプレイしたこと。別に一途に弁慶さんを推していたわけじゃない。歳をとるごとにハマるジャンルが変わり推しも増えた。そこらへんにいる雑食のオタクだけど、大人になった今こんなに近い距離で動く弁慶さんに会えた。人生辞めたいなんて散々言ったけれど、投げ出さないでよかったと本当に思った。

我々の人生に逆鱗(※作中のキーアイテム、過去に時空跳躍できる)はない。ないからこそこうして時々嬉しかった思い出を噛み締めて「人生悪くないかも」と途中途中で答え合わせをしていくのがうまい生き方なんじゃないかな…と帰り道ふと思った。

理想の大人になれなかったし、今だって毎日失敗だらけの人生だけど、あの舞台で生きている推しを見られたというたった一つが最近の生きる原動力となっている。