初めて一人で刀ミュ観に行った Road to 9.19

皆さんには実生活で腰を抜かした経験はあるだろうか。

 

遡ること4ヶ月前、私は生まれて初めて腰を抜かし椅子ごとひっくり返った。

ミュージカル刀剣乱舞 秋の新作公演の当落発表、どうせ当たらんだろと乾いた笑いを飛ばしつつもF5を押す手を止められない。やっとこさ入れた当落結果のページに一つだけはっきりと見えた「当選」の文字。

行くのか、憧れの刀ミュに、しかも一人で。ちなみにこの直後動揺のあまりコーヒーメーカーを落として割るという失態も犯した。

 

昨年の冬から急に刀剣乱舞にハマった私は2.5次元に精通した友人から手ほどきを受けるうちに、「いつか刀剣乱舞のミュージカルに行ってみたいなあ」とぼんやり考えていた。そんなタイミングで発表されたのが今回の公演、葵咲本紀である。

生来強い願望や目標を持つことなく、汗と努力から遠ざかって生きてきた私にとって、何かに向かって計画立てて準備をするというのは今の夫と結婚するために両親と話をつける以来の大イベントであった。

新作公演が発表されるやいなや、チケットの取り方を調べ、ミュージカル公式の会員登録をスマートに終える。なぜ普段の生活でこの機動を生かせないのか。

当選したことをTwitterで報告するとてっきり自慢すんなと怒られると思っていたが、良識あるフォロワーからは暖かい言葉とともに現場参戦の心得を教示頂いた。

優しいフォロワーのためにも悔いのない観劇をしたい、謎の使命感が私を突き動かし

た。公演当日までに私が勝手に私に課したミッションは以下の通りである。

  • 体調管理をしろ!
  • 体を鍛えて体力つけろ!
  • 応援うちわを作れ!

うちわを作る以外は人として最低ラインに近い行為である。とにかく体調不良で観に行けなくなることは避けたかった。思いつくのは早寝早起きだが、いらんことで腹を下したくなかったので公演3日前から肉に気持ち多めに火を通し、生魚を避けた。気持ちだけはいっちょまえに大会前のアスリートさながらである。おかげさまで風邪ひとつ引くことはなかった。

 

また、舞台で最高のパフォーマンスを見せてくれる演者の方々に対して、だらしない肉体で応援するのは失礼だろうと急に思い立ち、公演2週間ほど前からフィットボクシングを始めた。流石に体型はさほど変化していないが、定期的な運動は根暗人間を少しずつ上向きにさせてくれる。ほっそい自転車で爆走してジム通いしてるスカしたサラリーマンに対する嫌悪感が少し減った。おそらく来年の始めには腹筋は12個に割れ、片手で柿を握りつぶせるくらいたくましくなっているであろう。

 

応援うちわを作る、これが最難関であると同時に楽しかった。漫画家になりたいなんて昔は思っていたけれど早々に自分の才能に限界を感じた自分の手元には、絵を描く道具などない。以前の私なら「無理、やめとこw」とリタイアするが今回は諦めたくなかった。色画用紙を切り貼りし出来たうちわはお粗末なものだったけれど不思議と達成感があったし、次はもっと綺麗に作れそうという自信すら生まれた。

 

そうして約4ヶ月間、刀ミュのことを思い出したり忘れたりしているうちにいよいよ本番の日がやってきた。電車を乗り継いで初めてやってきた会場。自分が舞台に立つわけでもないのになんで緊張してんだ。頭が整理できないまま開演の時がやってきた。

 

「ホントにとーけんらん!つーよーくつーよくー!」て唄うんだ…

 

お前は何を観にきたんだ。しかしこの半年以上もの間家のテレビでしか見たことのなかった世界が割と目の前で再現されている。正直この刀ミュのメインテーマが流れたら感極まって泣いちゃうかもなんて思っていたが感動より先に興奮がきた。私の本丸で毎日玉やら貝やら集めてたあの人たちが私と同じ次元に来てくれてると思うと全身の毛が逆立つような気持ちになった。ああこれが念願の刀ミュだ。これ以上は話のネタバレに触ってしまうのでもう言う事がない。

小休憩を済ませ2部が始まってからがもう大変。人生で一番早く過ぎた40分であった。刀剣男士たちが我々のもとへと降りて来てからがもう大変である。視力はもういいから目をあと10個くれと切実に思った。己の視線と他の客のどよめき、どちらをとるべきか初心者の私にはとても難しい選択を毎秒ごと迫られていた。

私のそばの通路にも何人かが通り過ぎ、その顔のあまりの美しさに若干引いた。明石国行(えろう誇張した関西弁使わはる太刀、やる気がない)なんかもう彫刻だった。

私が応援する篭手切江くん(すていじに立つことを夢見る脇差、とてもかわいい)はそばにこそ来なかったものの、2階席から自分色のペンライトに向かって眩しい笑顔を振りまいてくれた。先日戯れに夢100を始め、絶賛感化されている私にとってその姿は誰よりも王子であったし、対する私は「もっとその笑顔を見せてくれ」という欲望丸出しの妙な笑顔を作っていたであろう。劇場が暗いことが唯一の救いである。

ちなみに私の夢100の推しは真珠の涙を流す残念美人ペルラくんだ。

そして想定外に刺さったのが鶴丸国永(驚きを愛する太刀、白い)。想像より遥かに鶴丸国永、生で見るとその堂々と歌う姿に驚かされる。彼の思うツボである。

 

そうして全公演が終了し立ち上がろうとした時、小さな事件が起こった。

立ち上がれない。頭の命令に対し足腰が(応答なし)、腰を抜かしたのである。

初めて刀ミュを見たから?座席が舞台に近かったから?篭手切江くんの笑顔が可愛かったから?まあ全部だろう。他よりワンテンポ遅れて立ち上がり、よろけながら歩き気づいたら喫茶店でケーキを貪っていた。

 

「大好きな刀剣乱舞のミュージカルを観たら感動して泣いちゃうかもね」なんてヘラヘラ考えていた数日前の自分、実際はそんな可愛くも美しくもない「腰を抜かす」結果であった。だが今日のことは確実に自分にとって感動フォルダに保存されるし、一生忘れたくない思い出になった。次の公演までにはもっと肉体が鍛えられている予定なのでおそらく腰は抜かさないであろう。

 

今日はとても夜風が冷たかった。やきもきと過ごした私の夏が終わり、歌合に向けて新しい季節が始まったのである。