電池パックに秘めた友情と恋

スマートフォンが世間に浸透して久しい。かくいう私も約8年前からずっとiPhoneを使っている。今ここでガラケー打ちしろと言われたら戸惑うだろう。

 

ふと思ったことがある。「スマホの電池パックってどこに入ってるの?」

 

私は中学生の頃から親に与えられたガラケーを使っていた。親に塾の送迎を頼んだり、級友とメール交換したり、それはそれは中学生らしくホンニャカと使いこなしていた。

 

ある日、親友とプリクラを撮った。同じ小学校出身、同じ部活で同じ塾、小6からの転校生だった私を、まるで昔からの友達みたいに付き合ってくれる本当に良い子だった。

今のプリクラみたいに派手に盛れこそはしないが、申し訳程度の美肌効果で田舎のイモ娘でもそこそこよく撮れた。私はなんだかその1枚が気に入って、ゲームセンター備え付けのハサミで半分こした後、ガラケーの裏フタを開けて電池パックにそのツーショットを貼った。なぜかわからないけど、他の同級生がするようにペンケースやプリ帳にベタベタ貼るよりずっといい気がしたからだ。

 

のちに私は親の仕事の都合で転校した。最後の日、親友はたくさんのプレゼントとルーズリーフにしたためた分厚い手紙を持って家に来てくれた。感動したけど、不思議と涙は出なかった。また絶対会えるという謎の自信があったからだ。

 

数年経ち高校生になった私は、とてつもなく恋をしていた。ちなみに私は女子校出身だが一部の方々が期待するような百合的展開ではない。相手は遙かなる時空の中で3というゲームの武蔵坊弁慶(CV:宮田幸季)だ。

ある日、オタクの友人に手を引かれ、生まれて初めて入ったアニメイトで彼の歌う曲が収録されたCDを買った。キャラソンである。これだけはどうしても知っていただきたいのだが宮田幸季氏はメチャクチャ歌が上手い。歌が上手いから尚更武蔵坊弁慶というキャラに熱を上げてしまったと言っても過言ではない。

CDの特典に彼の様々な表情を切り取ったシールが封入されていた。その中でも幾度となく画面越しに向けてくれた、優しい微笑みの表情を、あの頃よりも少し進化した新しいガラケーの電池パックにそっと貼った。ノートや手帳に貼るよりも、ずっといい気がしたからだ。

 

2年前の冬の日、件の親友が私の住む関西に会いにきてくれた。彼女は今海外で楽しく仕事をしているそうだ。一晩じゃ足りないくらいいろんな話をした。その中で彼女が、「一緒にいる時間は短かったけど、私はあんたが一番気の合う友達だと思ってるよ」と漏らした。嬉しくて嬉しくて感動したけど、不思議と涙は出なかった。その代わり帰りの地下鉄でずっとニヤニヤしていた。