心気症、胃内視鏡検査を受ける
※検査を受けるに至った経緯は下記を斜め読みされたし。
というわけでいてもたってもいられなくなった私は早速消化器内科の門を叩いた。
【〇〇区 胃カメラ】で検索し近所にある綺麗なクリニックを見つけた。これこそが正しいインターネットの使い方である。
白を基調とした清潔な待合室で「今日が私のXデーなんだ」という緊張と諦観を湛えた表情で順番を待つ。大型TVから流れるワイドショーも観る気にならず、雑誌にも手をつけず、ただただ呼ばれるのを待った。
30分ほど待ち、診察室に入った。緊張のせいで医師の顔はよく見ていなかったのだが、声がとにかく大友康平にそっくりのハスキーな人物であった。軽い問診の最後にハウンドドクターはこう聞いた。「今日、朝ごはん食べてきた?」
私の心の中の夜神月がニヤついた。計画通りである。私はできるだけ早く精密な検査を受けたかったので朝食を抜いてきたのだ。普段愚鈍な癖にこういうことに限って頭が回る。しかし計画が成功した喜びなど噯気にも出さず、「食べてないですけど、今日胃カメラできるんですか?」と素人っぽく尋ねる。(素人なんだが)
医師曰く、少し待てば午前中に胃カメラができるそうだ。胃カメラ未経験の私は、「こんな大掛かりな検査を迅速にしてくれるなんて、お医者さんは本当に大変だなあ」と、これからの検査に対する不安と医師に対する尊敬が混ざった気持ちで検査を待った。
再び待ったのち、今度は検査室に呼ばれた。早速ベッドに寝かされた。なにやら術前の麻酔をするそうだ。
読者の皆さんには本当に申し訳ないのだが、この過程に関してはどんな麻酔をされたかなどをよく覚えておらず、ざっくり書くことしかできない。なんだか喉に何かを塗られ、鼻にストローのような何かを突っ込まれたのである。
そしていよいよハウンドドクターが胃カメラをぶら下げやってきた。長い管の先っちょがテーマパークで売っているLED製の玩具みたいにキラキラ光っていた。よーしお前が私の胃の中に入ってくるんだな?かかってこいよ!強がっていられるのは最初の3秒だけであった。
胃カメラが鼻から侵入し喉を通過した途端盛大に唾液を吐いた。「痛いねー、ちょっと我慢だよー」できねーよもう無理。しかし大友康平は容赦無く胃カメラを突っ込んでくる。お前そんなんやからメンバーに愛想尽かされるんやぞ。
やがてカメラが私の胃に辿り着き、悪いところはないか必死で探し回る。
これだけは今でもよく覚えているのだが、「胃をマドラーで掻き混ぜられている」まさにこの喩えがぴったりの不快感だ。
モニターに私の胃の中が映し出される。「うーん少しだけ胃が荒れてるねー。軽い胃炎だよ。大丈夫!がんとかじゃないよ!」ふーんそう良かった!じゃあ早くこの管を取ってくれ!医師の優しい言葉にも答えられないくらい私は苦しんでいた。
検査の間、美人な看護師さんがずっと「大丈夫だよ、もう少しだよ」と手を握ってくれていた。25も過ぎてヨダレと鼻水まみれでオエオエ言う女を蔑ろにせず、優しく付き添ってくれていたあの人にまともにお礼も言えず、服の肩まで唾液で濡れた私はフラフラな足取りで検査室を出た。
というわけで私は胃炎の診断を受け、その後三ヶ月ほどの服薬で無事元気な胃を取り戻すことができた。ちなみにピロリ菌検査も陰性だった。
今、胃の調子が悪い人や胃カメラを受けようと考えている人にこれだけは伝えたい。ビビリな人はぜひ、「鎮静剤を使って検査が受けられる病院」を探すこと。
実は、私が行ったところでも希望があれば鎮静剤を投与してもらえるようで、実際に「はい今から鎮静剤入れますねー」と言われていた人が5分後にイビキをかいていたのが聞こえた(覗いた訳じゃないので詳細不明だが)。先生私も鎮静剤打って欲しかったんですけど〜。
また、「鼻から胃カメラは喉からよりずっとラク」の説が各地で散見されるが、鼻からでも充分痛い。「無痛分娩は自然分娩よりラク」説くらいの話半分で聞いておいた方がいい。どうしても鼻の穴が狭い人などは強制的に喉から入れることになるようだが、大抵のところでは経鼻胃カメラだと思うのでそちらに越したことはないが。
最後に、夏から秋にかけては1年で最も胃の調子を崩しやすい時期である。皆さんも冷たいものの飲み過ぎ、暴飲暴食はくれぐれも避けていただきたい。
暴走した食欲の行き着く先は胃をマドラーで掻き混ぜられることである。